「アスファルトの道」と「砂浜の道」

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タイトルの「アスファルトの道」と「砂浜の道」というのは、作家の遠藤周作さんが亡くなられて、25年経ってから発見されたという未発表の小説に書かれていた話の中から。


人間には「ふたつの道」があると。


ひとつは「アスファルトの道」で、もうひとつは「砂浜の道」。


「アスファルトの道」は生活の意味。つまり、毎日の日常を当たり前に生きる道のこと。


「砂浜の道」は人生の道。志をを持ち、高みを目指して生きる道のこと。


遠藤さんの母親は、遠藤さんに送った手紙の中で、ふたつの道についてこう述べています。

アスファルトの道は「安全だから誰だって歩く。でも後ろを振り返ってみれば、その安全な道には自分の足跡なんか一つだって残っていやしない」。


対して、砂浜の道は「海の砂浜は歩きにくい。歩きにくいけれども、後ろを振り返ってみれば、自分の足跡が一つ一つ残っている」そして、「そんな人生を母さんは選びました」「あなたも決してアスファルトの道など歩くようなつまらぬ人生を送らないでください」と。


遠藤さんの父親は、「平凡が一番だ」が口癖の”安定した生活を生きる”人で、対照的に母親はバイオリン奏者で音楽に打ち込み、”志高い人生を生きる”人だったそうです。

遠藤さんのご両親は、その”生活”と”人生”の相容れない生き方の違いから離婚し、遠藤さん自身もその”生活”と”人生”の間で揺れ動くことになります。


その後、父親がすぐに再婚し、母親は安いアパートで孤独のうちに亡くなりました。それが遠藤さんと父親との間に深い亀裂を生むことになるのですが、その父親との確執が”母親を不幸にした父親”に対する恨みだけではなく、やはりサラリーマンの安定した道を生きる父親と、作家と言う自由業を選んだご自身の生き方の違いが反映されていたようです。


そんな遠藤さんも、作家として絶頂期に肺結核を患った2年半もの闘病生活の中で平凡な生活の意義を見つめ直し、「沈黙」や「影に対して」などの小説を執筆しながらご自身や父親の弱さに向き合われたのだそう。


私は、遠藤さんの「沈黙」や「深い河」が、人間の善とも悪とも簡単に割り切れない弱さや業というものが深く描かれていて好きなのですが、こうした背景を知ると、もう一度読み直してみたくなります(*^^*)


そして、この番組を見ながら、私の頭によぎったのは、”魂の道”と”人間としての道”に置き換えても同じことだなと。


魂の道に沿って生きるとしても、霞を食べて生きられるわけじゃない。


たとえスピリチュアルな世界だけで生きていたいと願ったとしても、洞窟で瞑想だけして生きていけるわけではなく、やはり肉体を持って生きる人間として、日常を生きていかないといけない。


けれど、生活の糧を得るためだけに働き、子どもを生み育て、義務を果たすだけの人生だと、どこかで魂の渇望が起こってくる(起こらない方もいるかもしれませんが)。そのバランスがやっぱり大事だなと。

ETV特集の「遠藤周作 封印された原稿」、10月14日(木)午前0時~再放送が予定されています。


親子間の葛藤と許し。自分らしく生きる道とは。深く考えさせられる番組となっています。

ぜひ、多くの方に観て頂きたいと思います。